2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

今、終わる。

今日は雨だし、遡り日記を書く日にしよう。 でも、今は眠ります。

今日で最後、親父の声を録る

口角に白い唾液の泡を溜ながら、親父の最後の朗読は続く。 小松左京作「蚊帳の外」 摩訶不思議な激しい愛欲と嫉妬の短編を語る老人は 自ら最後の蝋燭の焔を吹き消さんばかりだ。 過去に数々栄光があったとは思えない、実に地味な役者稼業だったと感じる。 …

勿体無い新品

三十数年前、初めはジェリー・ガルシアかステファン・スティルスのようなギタリストだった。 でも、もっとガルシアみたいなギタリストがいて、それでは、とジム・ケルトナーになる。が、 難しいことを要求されて、じゃあ辞めた、とスティックを投げる。 ピア…

並ぶ金魚

金魚が並ぶ。 地震でもあるのか、と夜中に恐れた。 大体この2匹は水槽の中で方向転換するのがやっとなくらい、でかい。 金魚なのか疑わしいくらいだ。 だから並んでも地震は起こらないか、とも思う。 怪しいやつが変なことするのは当然で、誰も心配はしない…

春の兆し

今日も鼻毛を抜いている。 きっと明日も抜くだろう。 これは春の兆しだ。 窓の隙間や天井から、じわりじわりとやってきている感じがする。 抜いた鼻毛はまず数秒間じっと見よう。 へこたれてないか、ピンと先まで芯があるか、クログロとしているか。 確認し…

今日も親父を録る

今日も親父を録る。 おふくろのパンティストッキング・マイクにむかって 訥々と 何度も何度もつっかえながら 艶話を朗読する親父は まさにその話の主人公である。 好きンなって結婚を申し込んだ五十代の元芸者が 実は義父と息子も同時に結婚をしようとしてい…

電気磁石のある町

雨がひどい。大粒で重い雨だ。 2階の便所の窓から、小便をしながら外を見たら、電話線が揺れている。 雨粒はしがみつけずにボタボタと下に落ちる。 この夕方にこれだけ降れば、朝の散歩はなしだな、と少しほっとしたりした。 その数時間後、雨はぱったりと…

空地はいまも月と語る

いつまで空地でいるのか、 できれば死ぬまで空地であって欲しい場所 この一区画に季節の風が通り過ぎるたびに 老いる魂の所在を実感し、自分の中の小さな箱庭が 欲しているものを知る。 この空地に足を踏み入れたことはない。 靴底で語られる物語があまりに…

銀座には空があった

父を置いて喫煙しに外へ出ると、銀座には空があった。 風で揺れる「おいしい珈琲」に吸い寄せられて入った。 背の高い椅子しかないスタンドにちかい小さな店だが、喫煙可能。 で、珈琲も旨い。泥のように茶色で苦酸っぱい。 兄に場所を教えると、洗いたての…

16チャンネルは牛の匂いに包まれて

京王線布田駅を降りて、線路と垂直に交わる一本道を左へ行く。 より匂いがきつくなってきた。 つつじヶ丘で急行から鈍行に乗り換えてしばらくすると車内に漂ってきた匂いだ。 その時、窓外の風景は東京の田舎によくある山のない田畑だったから、 これはいわ…

乗り換えて一服

昨日のアルコールが残っていて、身体ん中が底無し沼状態で起きたら 16時過ぎだった。 15時に事務所で曲間決めの日程。 こんな時いつも感じる。あーもうダメだ、謝って謝り倒すしかない。 でもあがく。あがけばあがくほど、ことは上手くいかない。 トレーナー…

悲しみはパンのようにかじれなかった

西荻にお線香をあげにゆく日。 ここから西荻は遠い。しかも18時から19時なんてラッシュではないか。 とくにひどいのは中央線下り。足が地に着かない。 考えてみればラッシュアワーに揉まれた経験がないのだ。 高校だけ電車通学だったが自らその時間帯はふけ…

「シがヒにシがヒずむ」

親父の声を録る。 小松左京の小説「流れる女」の朗読を録る。 昨日からいっぱしのエンジニアである。 このクソ忙しい時に、しかし、親父には時間がない。 10分もしゃべっているうちに、声が嗄れて、痰がからむ。 「し」が「ひ」になり、「ひ」が「し」になる…

笑顔の壁

昼間、クジラさんの新曲のデモ録音をした。 クジラさんは大船駅のコンビニで譜面のコピーをした時、 元譜をコピー機に挟んだまま置き忘れたらしい。 そんなほんわかした曲だった。 おっきな手でギターを弾いても繊細な音が鳴る。 おっきな顔で歌っても深く優…

鍵盤の上の指は乾いて

突然、自分の携帯に電話する。 もちろん出ないで放置すると、留守録になる。 そうしたら、唸る。今さっき思いついたメロディーを15秒間唸るんだ。 なにしろすぐ忘れてしまうから、一分一秒をあらそう。 たまに自分の携帯の番号を思い出している隙に、メロデ…

天井が高すぎるんだ

天井が高すぎるんだ。 冬の陽射しが眩しすぎる。 急変する事実に、思いがまとまらないで、天井に散ってゆく。 まとめる必要はないと言われればそれまでだが、腕を組んで見上げるしかないのか。 多分、ないんだろうね。 現実と競走することなどなかったのに、…

待つことには慣れたから‥‥

待つことには慣れたから、待たせることにも平気になった。 いや、待たせることが平気だから、待つことにも慣れたのか、、、まあ同じこと。 しかし貧弱な足だ。立つとデニムの股引をはいたマッチ棒のようだ。 ふと、頭をよぎる。『岸辺のアルバム』というテレ…

袋小路の朝だった

この袋小路の道路を真直ぐ行くと海だ。もう随分朝になっている。 愛犬バクと煙草を買いに、橋を渡って寄り道したから遅くなった。 いつもはもっと暗く、影のような紺色の空なんだ。 ずっと話しかけながら散歩する。 「何食ってるんだ、だめだぞ」「寒くない…

眠りの椅子に今日も寝て

左腕の表皮が痺れているのは、寒さのせいか。 腰を曲げ、足を組んで、頭は眼鏡をしたまま萎れた向日葵のように下を向き、 昏々と椅子に座り眠るから、カチカチになった首が左腕の表皮を痛めつけるのか。 とにかく、たいした考え事もしていないのに、寒い部屋…

音を待つ黒いうどん

まだ仕事はないのかと、待っている物が多い部屋だ。 とりわけ音を伝える黒いうどんは、埃まみれで、壁から吊り下がっている。 デジタル化したとはいえ、ピアノやギター、そして声を録音するには、絶対必要。 待機していなさい。今に忙しくなるはずだ。 別に…

立ち寄る場所はいつも同じ

さあて、と思い何かしようと考える。 のんびりもいいが、罪を感じるほどは心身に悪い。 しかしなんにも出ない時は、屁もでない。 また煙草。犬が寝ながらむせかえるほどに部屋はもうもうとしている。 この寒いのに窓を開けろ、って、、、、、、、、、仕方な…

喫煙場所を求めて

銀座の灰皿は吸い殻の山。 首都高速の振動に揺れて今にも崩れそうだ。 父を置いて、某禁煙場所から喫煙場所を求めて、ふらふらと何分歩いたろうか。 寒いのに陽射しだけは強く、町は眩しい発光体であった。 何人か道に寝る人を飛び越えて、やっと見つけた。 …

古い2階の灯りは今日も足元を照らす

この家は2階が二つある。古い2階と新しい2階。 新しいといっても36年も前に建て替えられた。 ということは古い方は大戦直後のものか。記憶にない。 だから階段も二つある。 古い階段は狭く、下の方で直角に曲がる。 大戦直後の2階は祖父の遊興の場であっ…

この景色の真ん中に煙突があった

この景色の真ん中に煙突があった。 朝焼けに燃えて、黒々と、突っ立ていた。 だからこの2階の窓辺の頁は赤くなる。 煙突があった頃、その下ではとろけ出した鉄が陽炎を創る。 側を流れるどぶ川縁に男達は座って、夜明けを待っていた。 いつ煙突が消えたのか…