親父 喋る

築地

までもいかないが 主治医の前なら 発声した
驚異の快復力 とは言えないが 声帯を残してよかった
あとは地道に朗読などするといいらしい が
地道になれるほどの年齢ではない
そこのところは主治医も ぐっと飲み込んで
のんびりやりましょう としか言えない
月に一度の通院 月に一度のお出かけ姿
薄手のジャケットを羽織って 軽いズボンを履き
ピカピカの茶色の革靴で出かける
そうするだけでも 風を受けて 季節を感じ
後部座席でおもむろにメモ帳に書く
「暑くなった」
「あ、クーラー強くしようか?」
「バカ 七月だからだ」
バカはただただ 海岸道路を走るのだ