垢をすくう

父を風呂に入れた 洗い場に椅子を置かないと危ない
前に1度 バスタブを跨いでそのままスローモーションのように倒れた
隅のシャンプー置き場に顔を突っ込んで かたまってしまった
椅子があればとりあえず中間休憩ができる にしても
湯に浸かる時間が長すぎるんじゃないか 基本的に とも思う
浸かっている間 廊下で煙草を吸って待っている
物音がしたら覗きにゆく
父は一生懸命に 湯に漂う垢をすくっていた といっても
垢ではない 乾いて枯れ落ちた皮膚だ
自分の皮膚をすくって流している 何度も何度も
おかげで湯量が半分になってしまった



椅子