ついに五月

毎月1日には神棚に榊をあげる
祖父の時代からその八畳間の天井隅に神棚はあった
祖父は毎朝洗面後 食事前に手を叩いた
家中にパンパンと音が響き 瓦屋根の雀が飛び立っていった
たまに寝っ転がってテレビを見ていると 目を三角にして怒る
ちゃんと座れ
そんな時 渋々座るわけではなく 部屋を出て庭に降りる
庭石をひっくり返して ダンゴ虫やゲジゲジや螻蛄をいじくる
おまえのちんちんどーのくらい と 螻蛄にいうと
鎌のような大きな前足をひろげてくれる
そんなことして祖父が食事を終えるのを待ったのだ
祖父はとうの昔に世を去った が 神棚は残った
荒れ果てた神棚だが 榊と水は なんとなく気がかりで毎月かえる
自分が祖父になったからか いや 絶対違う 単なる習慣と
高いところに上れる家族がいないから だ
現に 手を叩いたことはない