袋小路の朝だった

袋小路の朝

この袋小路の道路を真直ぐ行くと海だ。もう随分朝になっている。
愛犬バクと煙草を買いに、橋を渡って寄り道したから遅くなった。
いつもはもっと暗く、影のような紺色の空なんだ。
ずっと話しかけながら散歩する。
「何食ってるんだ、だめだぞ」「寒くないのか、毛皮着て」
「はい、ここでうんちだ」「旨いラーメン屋が環八沿いにあるんだがなあ」
ほとんど狂人の散歩だ。
たまにすれちがう歩く老人達はきっと薄気味悪いに違いない。
でも話しかけるたびにバクはこちらを向く。
わかっているようでわかっていない顔、わかっていないようでわかっている顔、
どちらにせよふたりは歩くしかない。
だから袋小路の道路を朝の方へは行かない。
死にそうな光る海があるだけだし、繋がれた船の甲板をどぶネズミが走っているだけだ。
今日も朝を背にして帰路についた。
道路を左に曲がり家が近くなると、ふたりとも早足になって息が荒くなる。
白い息が朝焼けに染まる。
家に着くとバクは、白菜をバリバリと噛み、水を馬のように飲み、そしてまた寝る。
これは一日の始まりか、終わりか、誰か決めて欲しいといつも思う。