鍵盤の上の指は乾いて

鍵盤の上に

突然、自分の携帯に電話する。
もちろん出ないで放置すると、留守録になる。
そうしたら、唸る。今さっき思いついたメロディーを15秒間唸るんだ。
なにしろすぐ忘れてしまうから、一分一秒をあらそう。
たまに自分の携帯の番号を思い出している隙に、メロディーが消滅することだってあるから。
そんな苦労をして、数時間後、鍵盤の前に座り留守電を聞く。
あーじゃない、こーじゃない、しながらなんとか組み立てて小さなMDに録音する。
まだ、五線紙も鉛筆もいらない。
次に何度も何度も聞いて、やっとこPCに打ち込んでゆく。
ここで初めて鉛筆を持ち、原稿用紙に書く。
書くといっても歌詞でも音符でもない。単なるコード・ネーム。
こんなことを30数年やっているから
机の周りや、部屋の中は、自分にしかわからないものだらけだ。
今年はそんなものがもっともっと増えてしまうんだな、と
鍵盤の上の指は感じて、覚悟しているようだ。