16チャンネルは牛の匂いに包まれて

16チャンネル・レコーダー

京王線布田駅を降りて、線路と垂直に交わる一本道を左へ行く。
より匂いがきつくなってきた。
つつじヶ丘で急行から鈍行に乗り換えてしばらくすると車内に漂ってきた匂いだ。
その時、窓外の風景は東京の田舎によくある山のない田畑だったから、
これはいわゆる人糞たい肥による「田舎の香水」だと信じて疑っていなかった。
一本道をマスタリング・スタジオの方へ数分歩いて、そうじゃないことにすぐ気づいた。
木造の牛舎に20頭ぐらいの乳牛と泥まみれの犬一匹。
塀越しに強烈な匂いがやってくる。
The SUZUKIの音楽は工場の油臭いものじゃなかったのか、
これじゃあ田舎にやられちまう、なんてつまらないことを思ってスタジオに入る。
滞りなくいろいろ終わって、初めてのスタジオなので少し見渡すと
卓の横に見たことのあるマルチ・テープレコーダーがあった。
懐かしい。
84年か85年、同じ機種の16チャンネル・マルチ・テープレコーダーを買って、
自宅を湾岸スタジオと名付けた。
「これはまだ動くんですか」
「ええ、あと4バンド分くらいはなんとか、でももう部品がないですからねえ」
なんとも微妙な答えだ。
自宅にはこのデッキで録音した音源が数十本とある。でも、
デッキは解体してしまった。
1インチのマルチのテープはカビだらけだろうか。。。。
できることならここのデッキが生きているうちに、ハードディスクに移しておきたいものだ。
牛の匂いまでは移らないだろうから。