銀座には空があった

銀座には空があった

父を置いて喫煙しに外へ出ると、銀座には空があった。
風で揺れる「おいしい珈琲」に吸い寄せられて入った。
背の高い椅子しかないスタンドにちかい小さな店だが、喫煙可能。
で、珈琲も旨い。泥のように茶色で苦酸っぱい。
兄に場所を教えると、洗いたての白髪をなびかせてやってきた。
彼は珈琲が飲めない不幸者である。
「アイスティー、ガムシロなしで」
決して並んでは座らない。今の状況を説明する。
どちらかといえば苦い状況だ。
兄を交えて三人で医者の説明を聞いて、帰ろうとしたら、父が言う。
「珈琲でも飲んでいこうぜ」
三人また、風で揺れる「おいしい珈琲」に吸い寄せられてしまった。
父はアイスコーヒーにガムシロを2個も入れて旨そうに飲んだ。
いまのうちに無駄話をいっぱいさせておかなければ、
でも、あまり話ははずまなかった。