小さな岸辺

小さな岸辺

この小さな岸辺は 川でもなく 海でもなく どぶでもなく
コンクリートの堤と金網で囲まれた 運河にある
少し下降すれば 鉄でできた水門があり その先は海だ
その海はモノレールのトンネルと 造船所で狭く曲がりくねりながら 東京湾につながる
だから岸辺に波はない
些細な車の振動で 表面を僅かに震わせるぐらいだ
子供の頃 ここに死んだ犬を流した
庭は モルモットやカナリヤや ウサギやネコの墓でいっぱいだったから
木箱に死んだ犬を入れて 満潮時に岸辺から流した
あんなに波もないのに ちゃんと海まで到達したのか 
今心配しても仕方がないが そう思う
中学時代 水上生活者がいた
どこからか電線を引っ張て来て カラーテレビを見ていた が
まぼろしのように いなくなった
この岸辺は 出発の場所なのか 終着の場所なのか
この岸辺は 無の始まりなのか 存在の終りなのか
なんにせよ この岸辺に対岸はない
こうやって じっと見ているだけにとどめなくては
足首までも入り込んではいけない 
そんな小さな岸辺だ