銀座に影だけを落として

銀座の影

どうも親父のところへ行くと すぐに家路に着きたくない
兄がいっしょなら くだらない世間話でもして 
時間をつぶし、今まで居た空気をはらい飛ばして さっさと帰る 
普段 それほど世間話などしないのに よくもまあ 最近は話をしている
何かの悪態が一番効果的で 短時間で帰宅できるのは みんなそうなのか
母と行くと 無理矢理喫茶店に連れ込み 一服する
大した話はしない が
「長生きだよ、きっと あの親父は」
とか やっぱりなんとなく母は悪態をついている
問題はひとりの時
ため息をつきながら 顔見知りになっちまった守衛さんと挨拶をかわし
自動ドアが開くと なまあったかい風が髪をぐちゃぐちゃにしやがる
そーかあ、海の側なんだ とかまぬけなことを思って歩くと 自然に
首都高上の喫煙所兼公園に歩きつくのだ
石の冷たいベンチに座って一服 ジッポーのくせになかなか火がつかねえ
あっという間に一本、でもう一本
肺ががさついてきたから おもむろに立って帰ろうとしたら
影がいた
ふと 思う
お前だけ置いて行けたらいいのにな と
でも東京メトロまで 見事について来た